はじめに
- 朝川
- 今日は岸本先生から直接お話を伺えるということで、楽しみにしておりました。先生にお会いするのは 10 年ぶりぐらいでしょうか。
- 岸本
- 僕は 2011 年に立教を去っていますから、もう 14 年も経つのですね。
- 朝川
- 私は岸本先生が立教にいらした時に学べたので、非常にラッキーだったと思っています。先生には、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科で、「コーポレートファイナンス」と「クリティカルシンキング」の授業でお世話になりましたが、この二つの授業は、仕事の上でも最も役に立つ内容で、たくさんのことを学ばせていただきました。
<コーポレートファイナンスの話>
- 朝川
- 当時 ROI などは知っていましたけれど、ROIC の概念をあまり知らなかったものですから、そこを徹底的に学んだ上で、いわゆる上場企業基準の財務諸表をつくり、金融機関に持っていったら、「この地域で長年いろいろなお取引先を見ていますけれど、こんな財務諸表をつくり込んできたのは御社が初めてです」と言われました。そうした交渉によって借入利率が下がるなど、とても恩恵を得ました。
- 岸本
- なかなかきちんとコーポレートファイナンスをわかっている人は多くないですね。なぜかというと、未来のことは会計じゃないですよね。未来のことはキャッシュフローです、現金ですよ。経済的な価値ですよ。いわゆる会計というのは過去のものですね。なぜかというと会計原則とかすべてルールがあるでしょう。
ルールがあるということは、過去の帳票のつくり方、財務諸表のつくり方が会計なのですよ。だから会計を未来に延長してはいけないわけです。せいぜい会計的な概念をやるのは予算・バジェットぐらいまでですね。予算は現在の延長線だから。あとはすべてキャッシュ。資金繰りもキャッシュでしょう。
- 朝川
- そうですね。
- 岸本
- ベンチャー企業の評価もキャッシュでしょう。
- 朝川
- 先生の本でもキャッシュフローの大切さは何回も書いてありますね。本当に今でこそキャッシュフロー経営の話や ROIC 等の言葉も、少しメジャーになってきましたが、先生に教わった 10 年以上前なんて、そんな言葉はあまり使われていなかったので、ようやく 10 年たって追いついてきたと思うのです。当時から EVA や ROIC を使っていたので地元の金融機関が驚いたのです。そのなかでもアメリカに2年ぐらい在任していた金融機関の支店長は、「EVA やROIC がこの地域で見られるなんて驚きです」と言ったのです。その支店長は当然アメリカにいたから知っていたのですけれども、そうじゃない銀行の営業マンからは、これはどういう意味なのですかと言われましたから、グローバル視点と日本視点の差を感じました。
<クリティカルシンキングの話>
- 朝川
- クリティカルシンキングについては、一番怖さを学んだという感じなのです。
- 岸本
- 欧米では、非常に常識的なことなのです。日本は、それが抜けているのですよ。
- 朝川
- 当時は、私自身がMECE(ミッシー)とかクリティカルシンキングという概念もよく知らなかったので、こういう考え方に基づいていろいろな発案をするのだということをゼロから勉強させられました。
- 岸本
- 正しく考える方法と論理的に考える方法は違うのですよ。「論理的に深く考えること」と「正しく考える」、正しく考える方法の一つとしてクリティカルシンキングがある。正しく考えられないということはクリティカルシンキングが身についていないわけです。片方の深く考えるとか、論理的に考えるは、どちらかというと哲学的な思考が重要なのですね。この二つを分けて考えなければいけないわけです。
- 朝川
- なるほど。
- 岸本
- だからクリティカルシンキングができないということは正しく考えられないということになります。
- 朝川
- はい、考えるということにも手順があるということを教わりました。クリティカルシンキングを学んで、クリティカルシンキングが身についている人と身についていない人では、話してみるとずいぶん違うのだなということがわかりました。
<本日のテーマ>
- 朝川
- そこで、今日は三つテーマについて、お話を聞かせていただきたいと思っています。
一つ目は、クリティカルシンキングについて、まだ学んだことがない人や若手に、こういった考え方やこういった思考プロセスを学んでいくといいよというアドバイスをいただきたいです。
二つ目は、正しく考えることを学んだ人たちの組織についてピーター・センゲの組織論や、先生のお考えを交えながら、お話を伺いたいです。
そして、最後に、先生は事業再生に多く取り組んでいらっしゃった経験があるので、生き残った会社と生き残れなかった会社を分けたものを伺いたいと思っています。
よろしくお願いいたします。