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3.生き残る会社とは

<当たり前を当たり前にやる>
岸本
僕は大学の専攻は数学科なのだけれど、大学院は宇沢弘文先生という、有名な経済学者に師事したのですね。宇沢先生に年中疑問をぶつけられて、非常に訓練になりました。大学院で専攻したのは統計学と計量経済学なのです。その後、ソニーに入ったでしょう。そういう面では実務世界のなかで現場を見ているので、現場で考えるということを年中やってきたわけです。
学校の教師になる前はアーンスト・アンド・ヤングというコンサルティング会社にいて、アメリカ人だけじゃなく、世界のインテリジェンスと競争をやっていました。

当たり前を当たり前にやる

朝川
そこで磨かれた実行力と実務能力を駆使して戦ってきた後で、それを教える側になったので私たちに伝えられたということですよね。
岸本
あと大阪経済大学でも授業を持っていました。
朝川
大阪経済大学や神戸大学ではどんなことを教えていらっしゃったのですか。
岸本
特にベンチャーファイナンス。『アントレプレナー・ファイナンス』という本を神戸大学教授の忽那先生※1なんかと一緒に翻訳をやったのですけれど、リチャード・スミスという忽那先生の 先生がいて、そのリチャード・スミスの先生がドラッカーなのです。
※1…『アントレプレナー・ファイナンス ベンチャー企業の価値評価とディール・ストラクチャー』
岸本光永 忽那憲治 監訳  リチャード・L スミス ジャネット・K スミス 著 山本一彦  総監訳・訳 
株式会社コーポレート・キャピタル・コンサルティング 訳
朝川
なるほど。
岸本
だから、僕は翻訳の仕事でアメリカのカリフォルニアのクレアモントにいったとき、ドラッカーが亡くなる4カ月前にお会いしているのです。
朝川
不思議と先生の話やドラッカーの話、そしてピーター・センゲの話ってリンクしますよね。
岸本
そうかな。ドラッカーだって、オーソドックスだと思いますよ。ドラッカーは当たり前のことを言っているぐらいの受け取り方でいいのではないですか。
朝川
そうですね。でも、その「当たり前のことができていますか」というのが、ある意味、厳しい問いかけなのかもしれないです。みんな、基本ができていないのに奇をてらったりする方も多いですから。
岸本
ピーターも言っていることは、特別に感心なことを言っているわけじゃないと思う。よく考えると当たり前のことなのですよね、ピーターが言っていることもね。
朝川
やはり、その型つまり当たり前のことがちゃんとできている企業は生き残りやすいということですよね。
<生き残れる会社と生き残れない会社>
朝川
先生は本の中で、いろいろな企業の立て直しとか、相談に乗ったと書いてありましたが、そのなかには戦略不在の企業がほとんどだったとか、戦略思考を持たない企業は経営できなくなることを確信したと書いてありましたけれども、先生が見てきた中でなんとか生き残った会社と、やはり生き残れなかった会社を分けたのはどういうところになるのでしょうか。
岸本
まずは、従業員が思考する会社は伸びていくのですよ。それから、やはりリーダーが代わったときが生き残れる可能性が高いと思います。

生き残れる会社と生き残れない会社

朝川
なるほど。
岸本
今までのマイナスをずるずる引きずってきている会社が、リカバリーすることはほとんど不可能なのです。
朝川
では、今まである程度うまくいっていた会社で、リーダーが代わった瞬間に駄目になるケースもあるということですよね。
こういう企業が例外なく駄目になったという事例があったら、聞きたいと思うのですけれども。
岸本
最近つぶれた会社はみんなそうじゃないですか。パイオニアにしろ、山水電気にしろ、オンキヨーなんかもね、みんな駄目になったでしょう。シャープもそうでしょう。東芝もそうでしょう。経営者が将来を見ないで投資してしまったわけですよ。東芝なんて原子力に過剰投資してしまったでしょう。シャープも液晶に過剰投資してしまったでしょ う。やはり、それは変化に対して読めていないわけですね。これは、もう完全に経営者の責任ですよね。だから戦略を一言で言えば、変化に対する対応力なのですよ。
朝川
なるほど。その変化を読み間違えた、もしくは見えていなかったから駄目になったというわけですね。
岸本
間違えたらすぐ修正すればいいのですよ。
朝川
彼らは、間違えが認められなかったということなのですか。
岸本
それは経営者がズルズル認めなかったから、認めたくないとか、いろいろそういう想いがあったのかもしれないですね。
朝川
私がもともと大学院に行った理由は、もちろん勉強したかったというのはあるのですが、会社を倒産させたくないと思って入学したのですよ。だから、先生の話は最も倒産しないヒントがいっぱいあると思っています。
そこで、一言で、こうすれば倒産しない、生き残れる可能性があがるというアドバイスがあったら、お聞きしたいと思います。
岸本
やはり業界によって違うと思うけれど、ただ変化に対して対応力がついてくればずっと倒産しないですよ。
朝川
なるほど。今日の話は首尾一貫していますね。
岸本
うん。
朝川
変化を恐れるな、変化に対応していけ、そのために組織を変えていけ、そのためには変化に対応する旗をちゃんと掲げて、みんなをそこに集めて動かすのだと。
岸本
お金もそういう面では、変化に対応してそちらにきちんと投資していくことが必要です。ある程度遅れたらやばいですよ。早め、早めにやっていかないと、そんなに簡単に方向転換できないですからね。
朝川
はい。それを準備するのがリーダーの仕事であって、あとは意を汲んでくれた人たちが動く組織にすればいいということですね。
岸本
任せても大丈夫だと思える組織にする。
朝川
なるほど。一貫して、奇をてらわない話が多くて、私は安心したと同時に、身が引き締まる思いです。そして、ちゃんと基礎を学んでそのとおりに動けば生き残れる可能性が上がると先生がおっしゃってくれたことで、やはりそれでいいのだと思わせてもらったのが今日の一番の収穫です。
<マーケティングの落とし穴>
岸本
奇をてらうというのは駄目なのですよ。だから僕はマーケティングが苦手なのです。マーケティングというのは、現在のことを適当にまとめるのがマーケティングなのですよ。だから、そういう意味でマーケティングというのは、未来のことをあまりやっていないのです。
朝川
なるほど。戦術的には手を替え、品を替えというのがあってもいいけれど、本筋ではないということですね。
岸本
よその会社の成功事例が、参考になるかと言ったらならないでしょう。表面だけ真似してうまくいく会社なんかあり得ないのですよ。
朝川
そうですね。それぞれ企業が培ったストーリーが違うのに、他社のいいところだけつかんで、そこだけシナリオをぱくって使っても合わないですね。本質を無視したうえでのマーケティングは違うぞという話ですよね。
岸本
そう、自社と事情の違う他社を盲目的に真似するなということですよ。瀕死の傷に絆創膏を貼るようなものですから。
朝川
そうですね。絆創膏をつぎはぎして他社のいろいろな話を、自分のところに持ってきてもストーリーになるわけがない。
経営って、基礎力がきちんとしていなければ、主軸がしっかりしていなければどうにもならないということですね。大学院時代の先生のお話と今日の対談での内容が首尾一貫していて、本当にそのとおりだと思いました。