2.組織論
<これからのリーダーとは>
- 朝川
- 先生は常に本のなかでも、先生ご自身が交流のあるピーター・センゲのロジックや考えに、ある程度共感をしながら論を進めていますけれども、先生にとって組織のあり 方、こういった組織を目指すべきだというものがあれば、お伺いしたいと思います。
- 岸本
- やはり組織というのは、リーダーが決めるのですよ。そのときに今までみたいに俺についてこいとか、絶対的な命令とか、そういう組織はもう駄目なのですよ。これは変化がないときの組織なのです。
- 朝川
- はい。旧態依然とした上意下達の組織ですね。
- 岸本
- 高度成長期の「俺についてこい」という組織が通用したのは、あの時代は変化がなかったからです。先にゴールがわかっていたわけです。今の多くの経営者は、いわゆるゴールがわかっていないでしょう。いつも変化しているから。そうすると、そのゴールがない経営とか未来に対して、どうやって自分は組織を引っ張っていくのかを考えなければならないのです。
- 朝川
- 先生が求める組織におけるリーダーの資質、またはこういったリーダーがこれから求められるというのはどんなものでしょうか。
- 岸本
- 話を聞きながら、対話しながら論理的にちゃんと自分が決めたことを話せるリーダーでなければ駄目ですね。それから会社の方針に関しては、隠しちゃ駄目。オープンマインドじゃなければ駄目。やはり従業員が変化に対して反発する企業は、経営者が悪いのですよ。
- 朝川
- なるほど。変えたがらない組織をつくったリーダーが悪いということですね。
<従業員が共感できる旗>
- 岸本
- これからますます従業員が人材不足になるでしょう。だからそういう面では、従業員を育てながら自分で経営をやっていくためには、俺についてこい式は絶対駄目ですよ。
- 朝川
- 共通の課題に対して取り組む、そういった組織をつくることが重要になってきますよね。
- 岸本
- うん。
- 朝川
- 先生は本の中で「旗を掲げるリーダーが非常に求められる」と書いていましたが、先生は「旗」というのはどんなようなイメージをお持ちでしょうか。
- 岸本
- 旗というのは一つの会社の方針、方向性、そういうのが旗なのですよ。それから、従業員をどういうふうに幸せにしていくのか、そういう会社のポリシーみたいなもの、そういうのが旗なのですよ。
- 朝川
- それを見える化して、それに共感できる人と一緒に組織を創り上げていく。その旗に共感できない人は他へ行ったらいいということですよね。だからこそ、共感を得られる旗でなければ意味がないということだと思っています。
- 岸本
- そうそう。
- 朝川
- しかし日本の経営者の方たち、特に中小企業の方たちの多くは、共感できない旗を掲げている例が多いと思うのですが。
- 岸本
- 中小企業は最低賃金なんかも今回抑えたでしょう。たぶん、そういう会社は遅かれ早かれつぶれると思う。
- 朝川
- 今の労働市場の趨勢(すうせい)が理解できていないということでしょうか。
- 岸本
- そういう会社は、早めに撤退してほしいと思いますね。
- 朝川
- なるほど。ところで、企業が存続できるというのは、ドラッカーも言っていましたが、あってほしいサービスを提供しているから社会がその企業にいていいよと言ってくれるということであり、必要とされていないサービスをしているのに、だらだらと生きていってもしょうがないでしょうということですね。
- 岸本
- うん、そうそう。無理に生かしておいて、あとになって一遍に倒産するというケースが多いでしょう。今回もコロナの援助金で一時的に生かされていても、もう今年か来年かにバタバタつぶれていくと思いますよ。
<ピーター・センゲ 学習する組織~経営者(リーダー)とは>
- 朝川
- 先生が考えていらっしゃる学習する組織とはどんなものでしょうか。
- 岸本
- これはさっき言ったように、旗を立てた経営者がこういう方向だからこういうふうにして、こういうふうにすれば、あなたは幸せになるよというプログラム、または、そういう目標がないと学習しないわけですよ。
- 朝川
- なるほど。その大きな旗に向かって試行錯誤していく組織こそが学習する組織だということでしょうか。
- 岸本
- 試行錯誤というか、懸命な努力をしていくということです。
- 朝川
- そうですよね。失敗があってもいいし、失敗をしながらでも努力をすべきであるということですね。
- 岸本
- 経営者は失敗があったら、間違えた場合、修正すればいい。修正を恐れちゃいけないのです。やはり、トライ・アンド・エラーはあるのですよ。
- 朝川
- トライ・アンド・エラーのエラーが駄目といわれたら何もできないですからね。
- 岸本
- エラーを恐れちゃ駄目。チャレンジするにはエラーはつきもの。
- 朝川
- そうですね。エラーができる土壌をつくってあげるのが、会社の役目だと思っています。
- 岸本
- そうそう。
- 朝川
- しかし、ピーター・センゲの『学習する組織』は、とても難しい本ですよね。
- 岸本
- 『The Fifth Discipline』ね。
- 朝川
- そうなのです。
- 岸本
- discipline っていうのは訓練なのですよね。
- 朝川
- ラーニングオーガニゼーション、5つの discipline があって、システム思考、自己マスタリー、メンタルモデルの克服、共有ビションの構築、そして、チーム学習。
- 岸本
- まさにその旗に向かってということです。
- 朝川
- そういうことですよね。結局、共有ビションの構築、つまり共通の将来像を掘り起こしてコミュニケーションを続けていくこと、これこそが discipline の一つの鍵だということで、これらの5つの鍵を読んでギュッとまとめると、結局、チームが学んで成長できなければ、集合体としての組織も成長できないということでしょうか。
- 岸本
- 組織がまとまるというのではなくて、何をまとめられるのかということなのです。そうすると、やはり重要なのは経営者なのですよ。
- 朝川
- なるほど。
- 岸本
- 目標とか将来のこととか、従業員がそれに対して納得できる、納得することによって組織がまとまるのですよ。
- 朝川
- 旗をまとめて進めていくのがリーダーであり経営者だということですか。
- 岸本
- うん。
- 朝川
- そうですね。先生の本にもリーダーがなにもかも知っていなくてもいい。ちゃんとその旗を掲げて、その旗の元でチームをつくっていけるような組織をきちんとビルディングしていけば、それでいいのだと書いてあります。
- 岸本
- そうですね。
<常に変化を考える>
- 朝川
- ピーター・センゲの本に企業の抱える7つの学習障害があると書いてありました が、つまり組織で進んでいくのに7つの敵があって、まとめると職務イコール自分だ、自分だけよければいいという人とか、他責にする考えとか、ひたすら攻撃的になって保身に走るとか。
- 岸本
- それはなぜかというと、現在を認めているから。
- 朝川
- なるほど。
- 岸本
- 将来を考えた場合はどういうふうになるか、別の考えになると思いますよ。
- 朝川
- なるほど。現時点を守ろうとするからそうなっていく。でも将来の未来像が見えていれば変えたほうが組織のためにいいじゃないかというふうに流れを持っていこうとする。それがリーダーの役目なのだということですね。
- 岸本
- そうそうそう。
- 朝川
- 確かに、今の繁栄を守っていればいいと思っている人は、変えられたら困るって思っていて、そういう人がいっぱいいます。
- 岸本
- みんな、未来を見ていないわけです。
- 朝川
- そうですね。その駄目な理由というのを読んでいたときに、先生の先ほどのビスマルクの提言の話とかぶるのですけれど、6つ目に「体験から学ぶという錯覚」があると書いてあります。人は経験から最も多くのことを学ぶが、重要な決定の場はたいてい、その帰結を直接には経験しないと書いてあって、つまり経験から学ぶというのは錯覚だということと、経験は考えないという話が、示し合わせたのではないかというぐらいリンクしました。
- 岸本
- 経験を無視しちゃいけない。参考にすることはいいのだけれど、信じてはいけないということです。
- 朝川
- 経験からでしかものを考えなくて失敗をした事例がありますか。
- 岸本
- 東芝なんか、まさにその例ですよね。
- 朝川
- そうですね。きら星のごとく優秀な人がいっぱいいたのに。
- 岸本
- あんな優秀な人達を、うまくリーディングできなかった経営者は良いリーダーではなかったと思う。
- 朝川
- そうですよね。本当にあんなエクセレントカンパニーがなくなるなんて。だからましてや中小企業なんていつでも吹き飛びますよ。
- 岸本
- やはり中小企業だからこそ、リーダーの役割が非常に大きいのです。なぜなら、簡単に中小企業は組織を変えられるのだから。
- 朝川
- 良く言えば組織を柔軟に変えられるということですよね。悪くいえば、悪いほうにも簡単に変わるということでもありますが。
最後に「経営チームの神話」という章には、過去こうやってうまくいってきたものが、いつの間にか熟練した無能集団と化す、だから過去の経験でよかったことばかりにとらわれると、いつか失敗するという内容が書いてありますね。
- 岸本
- だから変化ということを常に考えなければいけないのです。何が変化して、どのように変化していくのか。それから変化した先が何に、どうなるのか。それを常に考えていないと。やはり変化を考えない人間は駄目ですね。
- 朝川
- そうですよね。世の中が劇的に変化していると言っても、なかなかその変化に対応しようという人たちが多くないですからね。
常に私は、岸本先生から教えていただいたことを活かして、意思決定に励まなければいけないと思っています。だからこそ、まだまだの企業ではありますが USEI は生き残ってこれたのだと思っています。
先生の教えは、首尾一貫しているのですよ。結局、先生はきちんと物事を考えなさい、とらえなさい、正しく考える努力をしなさい、そして、未来を想像してその変化に対応しなさいと言っていて、その教えに沿って愚直に取り組むだけでずいぶん状況が変わるのだなということを、私はこの 14 年間実際に取り組んでみて実感しました。
- 岸本
- 別に新しいことを言っているわけじゃない、当たり前のことを言っていただけであって、僕自身が特別なことを言っているわけじゃないですけれどね。
- 朝川
- でも当たり前のことを当たり前にするというのは、できていない人たちも多いので、それが本当に大切なのだということを学ばせてもらった気がします。