2. 埼玉県の経済
<東部地区と西部地区>
-
嶋内
-
早速ですが、内田会長にまず教えていただきたいことは、埼玉県の現状についてです。埼玉県の東側とはんしん様のある南西部に関して、それぞれの経済の活性度や規模について、どのようにお考えになっていますか。
-
内田
-
基本的には、埼玉県は東側が一番元気です。われわれ(飯能信用金庫)は埼玉県の南西部と、都下、三多摩地区エリアにあります。主要8市(飯能市・入間市・所沢市・川越市など)の中に約8割の支店が入っているんですが、ここはあまり元気なエリアではなく、マーケットが縮小しています。われわれのマーケットとは基本的にはそこに住む人たちですが、人口と、そこにある企業、特に中小企業の数が10年以上前からずっと減ってきています。その大きな原因のひとつは、東武鉄道の影響です。うちの沿線は西武池袋線と西武新宿線がメインです。昔は土地価格とかアパート、マンションの値段、それから賃貸契約の月々の支払、そういうものは西武池袋線の方が東武東上線と比較してずっと高かったんですよ。現在は、完全に逆転して、東武東上線沿線の方が高いという現状です。特に東武線が元気になったのには、スカイツリーの影響が大きいです。
-
朝川
-
そうですね。東武伊勢崎線は、スカイツリー線という愛称が付いたりしていますしね。
<はんしん様の戦略>
-
嶋内
-
ところで、今のお話ですと、西の主要8市に8割の支店があって、そこが元気がないということになりますが、はんしん様の今後の戦略は一体どういうものになるのでしょうか。
-
内田
-
私は12年前(2006年)に理事長になったんですが、就任時に、毎年出る人口統計の予想を見たら、われわれのエリアは確実に人口も減るという予想が出ていたのです。マーケットが小さくなる場合、われわれは何をしなくてはいけないかというと、一つは現状維持、あるいは拡大するためにはシェアアップです。私が考えたのは、業績を拡大するためには、シェアアップが当然必要ですが、それに加えて地区を拡大する、つまり、小さくなるマーケットなら、マーケットを大きくすればいいんだということです。
当時は、バブルの後で、どこの金融機関も支店をどんどん減らし、経費なども減らして、縮小して均衡を保とうという考え方だったんですが、私が就任と同時に、「うちはこれから拡大均衡で行くよ」と言いました。当時、拡大均衡で行くなどとは、狂ったんじゃないかと思われるような話でしたね。どういう事かというと、信用金庫の場合は地区が限定されてしまいますから、広がることが必要だろうということで、エリアを広げるべきだと考えました。
東側は発展地ですので、東側へエリアを拡大していくという拡大均衡をやるという決意表明をしてしまえば、やらざるを得ないということで、普通はなかなか言わないものですが、この時は新聞にも出してしまいました。
さいたま市1市とこの8市でちょうど同じくらいの経済力を持っているんですよね。だからさいたま市にはぜひ進出をしたいという話も出しましたし、あとは、新座から戸田のエリアも考えました。
-
朝川
-
そうですね、戸田、草加、越谷とか広がっていますから。
-
内田
-
そう、あと青梅街道沿線に支店を広げていきますという話もしました。つまり、今までのマーケットは縮小傾向だけれども、それを何とかエリアを拡大することで、大きなマーケットを対象にして、我々を大きくしていこうという方針でした。その背景としては、まだ職員は非常に元気で若いですし、やる気も十分ある者が多かったですから、これなら大丈夫だろうと思い、他の金融機関とはちょっと違う「拡大均衡」へ舵を切りました。今思うと、結果的にはそれが成功だったということです。
-
朝川
-
内田会長のすごいところは、有言実行なんです。
-
内田
-
私はね、怠け者だからね、やらなくちゃいけないために、わざと言っちゃうんですよ。言っちゃうとやらなくちゃいけないでしょう。
-
嶋内
-
自ら宣言してしまいますと、他の金融機関から、「内田会長は、こんな事をおっしゃったけれど、実際はどうなんだろう」ということで、結構反響があったんじゃないですか。
-
内田
-
まあ、あったでしょうね。
-
朝川
-
単独の金融機関で発展させるという発想は、なかなか珍しかったと思います。
-
内田
-
そうですね、はい。
-
朝川
-
はんしん様の考えで非常に感銘を受けたのが、縮小する市場の中で、単体で拡大していくという会長の考えです。もう一つは、ビジネスモデルを旧来とは変えていくという意識です。預金に関しては非常に順調でも、収益は今の金融機関では難しいじゃないですか。そのビジネスモデルをどう変えていっているのか、お聞きしたかったんです。
-
内田
-
今の支店網は預金用に作ってあるんです。これは「狭域高密度」ということで、言ってみれば各駅停車みたいに支店を作って、相乗効果を出しながらやっていくということです。収益を考えた場合、シェアを高めていくということと、シェアは低くてもエリアを拡大するという2つの考えがあるのですが、預金については、狭域高密度、つまりシェアを高めるという政策で支店を出すことができていたわけです。
それを私の代になって、うちは、融資は普通だけど預金が伸び過ぎているから、預貸率が低いんだという話をして、やはりこれからは融資を提供する支店を作っていくんだという方針を出しました。これは、つまりエリアを拡大して、これからうちが出る境界の所、いわゆるフロンティアへ融資用の大きな店を作っていくということです。今、所沢には8店舗もあるわけですけれども、大きなエリアを持って融資をやっていくという店舗網を作り出せたということは大きいと思います。このような考え方で、預金から融資へ、政策を変えたということです。
-
嶋内
-
そうすると、東の方に出ていくお店というのは、高密度の預金獲得シェアというよりは、融資でマーケットを拡大するという戦略でしょうか。出す支店の性格づけも店によって預金重視なのか、融資重視なのか、変わってくるということでしょうか。
-
内田
-
私の代になってからは全部融資重視です。
-
嶋内
-
融資重視なんですね。なるほど、旧来のビジネスモデルから、完全にシフトしていくことで今の業績につながっているんですね。
-
朝川
-
そうですね、実はこの内田会長のモデルをパチンコビジネスに応用させてもらったのが、弊社なんです。
まず、西部が縮小していく市場だということ、これはうちの業界もそうなんです。この縮小していく市場にどう立ち向かうのか。弊社は、やはり東部への進出という答えを出しました。一昨年(2016年)、はんしん様からご融資をいただいて、春日部に初出店させていただきました。内田会長の言う、東に進路を取る。それは別に西を否定するわけでなくて、東の運営ノウハウを吸収すると、西もさらに良くなるということです。
-
嶋内
-
そうですね。
-
朝川
-
やはり競争環境の中で、安易に落ち着いたらいけない、常に切磋琢磨していくという姿勢は、メッセージとして打ち出していきたいと思います。
<知名度とブランディング>
-
嶋内
-
ところで、私たちは、西南地区ではある程度知名度があったのですが、東部の春日部に出店した時に、全くゴープラというブランドが通じなかったんです。
内田会長にお伺いしたいんですけれども、同じようにはんしん様が、さいたま市に出した時に、知名度やそれに伴うブランディングの問題にはぶつからなかったんですか。
-
内田
-
これはですね、苦労しました。われわれの西部地区、例えば川越と大宮は隣同士ですよね。でも全く違うわけです。
-
朝川
-
そうなんです。
-
内田
-
非常に戸惑ったわけですけれど、まず、「さいたま支店」という店を川越に近い所へ出してみたのです。そんな大きい店じゃないですが、最も優秀な支店長と精鋭を集めました。
基本的に、能力というのは知識と経験ですから、うちでいう精鋭というのは、知識もあり経験もあるということです。知識というのは、うちの場合は中小企業診断士を持っていることです。今、29人、今年あと2人出ますので、中小企業診断士は多い方なんです。支店長も当然、中小企業診断士ですから、優秀な支店長をやって新天地を開拓させたということです。後から聞いたんですが、周りは「はんしんは、たぶん超零細企業をターゲットにするのだろうと思っていた」そうなんです。しかし、実際は、中企業以上をダーッと浦和までテリトリー全部をやりました。
-
嶋内
-
浦和の企業までですか。
-
内田
-
はい。そこで「はんしんは、なかなかやるねえ」と言われたのです。結構良い評判をいただき、融資もすぐに200億円から300億円へ、うちの中でもダントツにトップの融資量になっています。つまり、いろいろな悪条件を人材でカバーをしたということです。こちらから企業に伺うわけですからね。やはり人だなと思います。だから知名度というのは、こちらから伺えば、解決できるということでしょう。
<USEI、東部への挑戦>
-
嶋内
-
USEIも、春日部店を出して最初はとても苦労しましたが、ようやく1年かけて認めていただいて、最近では、知名度も上がってきて、今では春日部地区で弊社が1位なんです。埼玉県内でもベスト10に入るところまで来ています。社長は、春日部店出店の勝算はどんなふうに考えていたのですか。
-
朝川
-
まず、パチンコの大きな弱点というのは、生活が疲弊するくらいお金を使って遊んでしまって、その後、色々な社会的な不幸も起きてしまうというところです。そういった問題を私たちは本気で解決したいと思っています。パチンコ自体は別に罪でも何でもなくて、それをどう提供するかが問題なんです。金融業も優良金融機関から悪徳な高利貸しまで色々な業態があるように、金融自体が悪いわけじゃないということと同じです。では、私たちはどうやって私たちの考えをお客様に伝えられるのかというと、ホームページに記載したり、業界に発信するだけではだめなんです。
やはりはんしん様と一緒で、その店舗が何をするかということだと思うんですよね。私たちのビジネスでは、基本的には1店舗、半径2キロから2.5キロの範囲からしかお客さまは来ないので、その地域のお客さまにきちんと認知されていくべきだと思っています。私たちの考え方をきちんと伝えていけば分かっていただけて、そうすると、私たちは店舗網を少しずつ広げていくことができ、それが業界を変えていくことになるという信念をもってやっています。そのためにも、東部エリア初出店である春日部店においては、客数というものに非常にこだわりました。
はんしん様でいうところの預金量とか融資額と同じように、いろいろな指標はあるんですが、まずは客数を目標値に達成させるということを重視しました。客数が上がって、初めて通用するんです。
-
嶋内
-
どうしてそのような考えをもったのでしょうか。
-
朝川
-
私たちのパチンコという業種自体は、色々な事を言われますし、実際社会的な不幸を生んできた歴史もあったので、それに関しては、特に反論する気はないんです。しかし、内田会長と上海で話した時(注:2010年海外研修時)に、会長は「朝川さんがやっているのは、単なるギャンブルとしてのパチンコじゃなくて、年金の範囲内で遊べるものを提供していくことで、病院とか介護施設とかと同じように、その地域のインフラとして考えている。ですから、はんしんとしては、朝川さんのところには融資するよ。だから、どんどん頑張って展開してほしい」と言ってくださいました。私はそれを受けて初めて、ものすごい勇気をいただけて、店舗展開をするという覚悟が決まりました。そのためには地域に認められる必要があると考え、それが一つの指標であるなら、客数シェアを、エリアで1位にすることが重要だと考え邁進してきました。
-
嶋内
-
なるほど。
これは埼玉県内のパチンコホールの稼働率です。埼玉県内に約528店舗(2018年5月現在*遊技産業健全化推進機構調べ)のパチンコホールがある中で、USEIは埼玉県内に展開中の6店舗のうち、ベスト10以内に5店舗(入間店、新所沢店、川越店、飯能店、春日部店)が入っているという状況です。これは、常に客数にこだわってきた結果だと思います。
*メディアシステム株式会社調べ