「生き残り」と「共存」

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嶋内
今日の対談のテーマは 「ケーススタディに見る企業の生き残り戦略」ですが、高橋先生の研究の中から、生き残る企業の法則、あるいは機能的にこういった会社が生き残れるという知見があれば、それらをフィードバックしていただきながら、対談を進めたいと思います。

LCCを名乗る理由

<偶然の再会>
朝川
そもそもこのテーマにしたのは、立教の大学院で、高橋先生のケーススタディの授業で、 サウスウエスト航空のケースを読ませてもらった際に、「これはうちのビジネスとリンクする」と思ったからなんです。
高橋
サウスウエスト航空のケース、面白かったですね。
朝川
サウスウエスト航空は、従来の無駄を無くし、飛行機を空飛ぶバスにして、多くの人に飛行機という乗り物を開放しようというところが、私が目指していた 「パチンコを低価格にしよう」というビジネスとリンクしていたのです。それで,私たちのビジネスも、もっとノンフリルに届けたいという思いが強くなったのです。パンフレットでもアミューズメント業界のLCCを名乗っているのは、そんな理由からです。
高橋
ホームページにも、書いてありましたね。
朝川
まさにケーススタディの授業をビジネスの形にしたのです。実はサウスウエスト航空には、少し思い入れがありまして。大学卒業後、私は金融機関で働きました。その後パチンコ業界に入ったのですが、初めから同族企業では働きたくないので、業績の良いパチンコホール企業で2年間勉強させてもらいました。その企業の経営企画室にいた時、経営コンサルタントから『破天荒! サウスウエスト航空-驚愕の経営』という本を紹介されたのです。でもその時は、「この本は素晴らしい」というだけで終わってしまいました。

結城

高橋
その本は知っています。
朝川
高橋先生との出会いは2011年。私が大学院2年生の時で、USEIではちょうど低価格店を出した時期でした。偶然ですが、そこでまたサウスウエスト航空のケースに出会えて、それがUSEIの低価格ビジネスについてさらに深く考える機会になったのです。
高橋
僕もアメリカのビジネススクールで500~600本のケースをやりましたが、サウスウエスト航空は、その中でトップ10に入ると思います。経営者が大きな決断を迫られた時、 今までの競争力を生かすべきか、今までのノウハウはあまり生かせないが新しい可能性があるならそれにかけるべきか、どちらに舵を取るのか、日常的に経営でよく迷うことを考えさせる良いケースでした。
朝川
はい。サウスウエスト航空の事例に出会い、その業界の常識を覆すビジネスに対する本気の覚悟を学ぶことによって、パチンコ業界ではスタンダートである4円パチンコのビジネスに対して、 私は本気でパチンコのLCCを目指すべきだという気持ちをさらに強くしたのです。
<サウスウエスト航空のケースから学ぶこと>
高橋
そういえば、あの授業で、唯一正解を導いたのは朝川さんでしたね。ケースのテーマは「新しい路線をどこにつくるか」でした。たいていの人は、いわゆる従来の競争力を生かす判断を選んだのですが、朝川さんだけが、東部進出という判断を選びましたよね。経営判断において、 今までの強いところを生かすことはとても重要です。でもそれは企業内部に注目した戦略です。 マーケティングの観点では、企業は新しいマーケットを常に開発していかなければならない。そこに着目したのは、朝川さんだけだったので、それは僕もよく覚えています。
朝川
南部の地域ではすでに資源もネームバリューもあり、ビジネスモデルも確立していました。その状況下で、人的、資金的な面からみても、創業者が経営に携わっている間に新しい場所でゼロからやることは、とても勇気ある決断です。しかし、むしろこれから生き残る上では正しいと思いました。なぜなら、まだサウスウエストのすばらしいサービスを体感できていない地域で、高く不便な航空サービスに従っていた人たちが、新しい体験ができるというのは、非常に魅力的ですし、ハーブ・ケレハーならそう決断するだろうとも思いました。
高橋
意思判断、意思決定をする時、 「その強みを生かす方向性で考える決断」と、 「今までとは連続していないが将来性を考えた時に下さなければいけない決断」がありますね。
嶋内
サウスウエスト社は、生き残る力が強い会社ということになるのでしょうか?
高橋
サウスウエスト社は、データによると人件費は高くないので、高い人件費で人を引きつけているわけではない、乗務員(キャビンアテンダント)が掃除をしたり、荷物の上げ下げはパイロットが手伝うなど、見方によると安い賃金でいっぱい働いているのです。しかしそれが嫌ではなく、働いているのがうれしい、いわゆる喜んで働いているという文化があります。経営学的に言うと、働く目的として、もちろん給料も一番大きなウエイトを占めているのですが、やはり コミュニケーションがきちんと取れるかとか、きちんと見てもらっているかなど、給料とは違う要素があります。そこでうまく良い人を引き付けていることが、生き残っていく上で非常に重要です。
嶋内
ここでまとめますと、朝川社長は高橋先生のケーススタディの中で、サウスウエスト航空の話に非常に触発された。また、高橋先生のお話だと、自社の経営資源や強みを生かすという仕事のやり方が通常であるけれども、 朝川社長はあえて、低価格のパチンコが,飛行機ではありませんが,低空飛行のままでいる業界の現状に事業機会を見出し、低価格のパチンコのパイオニアになったというわけですね。
朝川
すでに2010年には低価格の新店を出していたのですが、当時はまだそれを展開していくかどうか、判断がつかないところもあったのです。
嶋内
そのころ、高橋先生のケーススタディの授業でサウスウエスト航空の事例に取り組み、勇気づけられたということですか?
朝川
そうです。高橋先生とディスカッションさせてもらう中で、どんどん発想が固まっていきました。実際、私がUSEIに入った時には、 ゴープラ入間店のお客様は8人しかいなかったので、もともと8人しかいないなら、ビジネスを思いっきり転換できるとも思ったのです。 死ぬか生きるかだったら、死んだつもりで業界に無いものをつくりたくて。そうしてできたのが、現在のこのビジネスモデルです。ロゴにあるゴープラの g の文字も裏読みで 8人の頃を忘れるなという、そういった裏メッセージがあります(下がゴープラのシンボルマークですが,よく見ると8の字に見えます!)。
ゴープラのシンボルマーク
高橋
なるほど!!
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